「Brexit」は、確かにブラックスワンだけどさ?

24日の金曜日、英国でのEUからの離脱か、現状維持かを問う、国民投票がありました。結果は「離脱」。これによって、現政権のキャメロン首相は、10月に辞任すると表明し、新たな首相の選任に入りますね。

 

結論から言うと、保守党内での政治基盤が弱かったキャメロン首相は、その政治基盤を固めるために、賭けに出るしかなく「国民投票」という間接民主制を一種否定する形での政治決着をするしかないところまで追い込まれ、賭けをして、敗北したのだと思います。

国論を二分する民意が存在した場合、国民投票をして民意を知るというのは、政治家の政治放棄です。なぜなら、国家というものが人の集積でできている以上、僅差の対立する意見を明確化するということは、分裂するきっかけをつくりだすからに他ならないからです。

 

幾度もの戦乱と紛争の歴史を乗り越えてきた人類が、不備だらけで、万全ではないにしても、独裁や、全体主義や、壮大な実験の末、無理ということがわかった共産主義などよりはマシとして運用されているのが、間接民主主義という政治システムです。

 

選挙で選ばれた、それぞれの立場の代表者が、少数意見をも取り入れて、政治を行っていくという、時間も、コストも、労力も、市民すべての意識向上も必要な、実に非効率な政治システムです。

それを行う政治家を選んだのは市民です。

これを忘れてはいけないし、ただ批判するだけなら、それは天に唾をしているに等しく、苦しくて、理不尽で、そう簡単には思う通りにいかない政治システムです。

当たり前です。人はすべて違うからですよね。

 

でも、この不格好で、不備だらけの政治システムを使っている理由が、過去の歴史にあるのですよね。

歴史を振り返れば、どれだけの少数意見や、政治参加ができなかった市民が酷いことになってきたのか、歴史は明確に示していますから。

だから、そもそも、英国のEU離脱などというのは「ばか者のたわごと」とされ、極右政党が5年ぐらい前に言い出した時は、そうゆう受け取り方でした。

 

米国の独立などで英連邦にほころびが出始めた後、二度の世界大戦を経た末の英国は、かつての産業革命を生み出した繁栄は、製造業の海外移転に伴いもはやそこにはなく、長く停滞の時代を余儀なくされていました。

その中で、様々な議論はあったにせよ、EUの前身であるECに参加し(途中で離脱の国民投票もありましたが、残留6割以上だったかと)現在に至ります。

 

しかも、EUのビジョンとは、

「二度の世界大戦を経た欧州で再び戦争を起こさないこと」

 と、

「米国に対抗できる28か国(5億740万人、つまり米国の1.6倍規模)の自由貿易圏の創設」

にありました。

だからこそ、なぜ、今、EU離脱なのかというと、背景を見ていかないと、間違います。

 

まあブラックスワン(予想をしていなかった不確実性なので、対応の準備ができておらず、リスクの極大化の可能性があること)ではありますが、まずは今後の流れを確認するとともに、影響の範囲を、わかる範囲で現状確認することで、打てる手があるのではないかと考えます。

もちろん、僕の考えなので、間違っているかもしれませんが、いたずらに不安を掻き立てたり、日本の株式市場だけの話をしたり、リーマンショック以来だとかいうのは、あまりにもお粗末なので、経営者の皆さんには、勤めて前向きな発言をされることを、お勧めいたします。

まずは、現状を確認するところから始めたいと思います。長いけど、付き合ってくださいね。

 

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そもそもの背景から見ていきましょう。

先にも書きましたが、EUは、第二次世界大戦後に、二度と欧州を戦場にしないために、妥協をしながらも、考え出された欧州統合の象徴です。

 

まず、EU(欧州連合)とは、欧州の28カ国が加盟し、国家主権の一部をEUの機構(欧州議会、欧州理事会、欧州連合理事会、欧州委員会)に譲るものです。

5年ごとの選挙で議員を選ぶ欧州議会と、理事会で決定された法は、加盟国毎のその国の法(ローカルルール)に優先しますので、準国家連合の仕組みを持っています。

 

そして、経済面での優位性を保つために、EU加盟国間での関税の非課税をとっています。つまり、商品の移動の障壁を失くした訳ですね。確かに、消費税のような付加価値税の率は、各国で異なりますが、28カ国間の輸出入には、関税はありません。

 

さらに、人の動きに関する「シェンゲン条約」です。条約を結んだ、大陸のEU25カ国内(人口では約4億人)では、国境での審査が廃止され、自由に行き来して、居住、労働ができます。

ただし島国のアイルランドや英国などは除外されていますから、フランスから英仏海峡を渡るときには、入国審査があります。経験された方も多いかも。

 

つまり、基本的には、経済と、人の移動や居住や、労働の自由を約束することで、単一市場の国家統合の中心に据え、できるところから統合をしていく政策な訳です。まずは民族の交流と経済の利便性によって、将来的な政治統合を目指していく途上にあるとも言えます。

 

そして、関税の撤廃が商品(モノ)の移動を自由にし、シェンゲン条約が労働力(ヒト)の移動を自由にし、統一通貨(法定通貨)のユーロ(カネ)が運用されている訳です。ただしユーロに関しては、EU28カ国の内、19カ国でしかありません。それに、英国はもともとユーロには加盟していませんね。

 

そもそも、EUと距離感が英仏海峡という物理的にもあった英国を、離脱という行動にまで発展させたのは、何と言っても移民問題です。僕も、何度も書いていますし、だからこそ、ユーロという単一通貨のポジションを持たない訳ですよね。

 

さて、最近の問題ですが「難民問題」というのが、今回のBrexitに大きな影響を及ぼしています。

EUの難民問題とは、アラブの春に始まった政治的な混乱による、アラブやアフリカからの3,200万人にも及ぶ人のEU域内への人の物理的な流入の問題です。

特に最近は、ISIL(イスラム国)も含み、内戦が続くシリアからトルコを経て、EU域内のギリシアに入国する人たちが多く、一説にはシリア国外逃れた難民は何と410万人、シリア国内では1170万人がな難民となっていると言われています。とても悲しいですね。

 

そのEU域内に入ってきた難民の中で、賃金が高いドイツに逃れた難民は、2015年で110万人。現在でも、何と、毎月10万人が押し寄せていますが、メルケル首相は受け入れを表明しているので、国内の反対が盛り上がっています(国民の40%が反対)。

また、記憶に新しいところでは、2015年の11月にパリで起きた同時多発テロや、ドイツ各地での暴行や窃盗を、警察は「難民がらみ」と発表し、内政不安の要素が増大してきています。経済には明らかに悪影響ですよね、、、

 

そんな状況を背景に、英国でのEUからの離脱問題が、極右の「ばか者のたわごと」だったはずなのに、ポピュリスムによって喧伝され、ちょうどそんな中、ギリシャの財政問題に単を発し、ユーロに対する信認が揺らぎ、さらにEU域内へ難民の流入という、人道的観点からは如何ともしがたい問題が発生しました。

そして、現在の保守党政権のゆらぎもあって準国家を目指しているEU統合に対しての、本来の国家主権の回復への動きが加速してきています。

つまり、過去を知っている60歳以上に離脱派が多く、すでに誕生していた時には英国市民であるだけでなく、EU市民でもあった30歳以下には残留派が多いという状態で、増大する難民、もっとリックスルーすれば、一生懸命に働いて、仕事を奪っていくEU域内でも勤勉勤労な東欧の方や、失業率の高い国からの移民の流入で、自らの仕事を奪い取られたと思っている英国の中間そのものが、EU離脱に賛成するという、自らの首を絞める動きとなりました。

だって、EU離脱をして、真っ先に影響ができるのは、多分、英国の中間層や、労働者層ですから、これ、日本の未来でもあるかもね。

 

では、具体的にBrexitの影響を考えてみます。

 

1、EUという自由貿易圏からの離脱による、英国経済の弱体化

 (EU域内との貿易に、関税がかかりますから)

2、金融面での、ロンドンのシティの地位の低下

 (EU域内での免許以外に英国免許が必要になるから)

3、他国のEU離脱も誘い、EU解体の動きが出る可能性が生じること

 

実は、書き出してみて気づいたんですが、1以外はそんなに大きな影響にはなりません。

一番の問題は、イングランド中央銀行のカーニー総裁が何度も表明している通り、ポンド急落による英国経済の破綻です。

あのね、ポンド急騰じゃなくて、急落ね。

英国は今でもGDPに占める輸出の割合が、日本の倍以上ありまして、そのほとんどは金融と、エネルギー資源です(北海油田って聞いたことがありませんか?)。

英国での製造業は、ほどんどその地位を下げています。産業革命を起こした国では、製造業の空洞化が進み、GDPのほとんどはサービス業であり、金融業です。

その日本よりも輸出依存度が高い、英国の中央銀行総裁が言ったのは「ポンド急落」を危機だと言っています。

 

さて、日本では、円高が悪だと言われていますが、これ、誰か解説してくれません。価値がないものの方が、価値があるよりもいいという理論理屈(笑)しかも、日本よりも輸出依存度の高い国の話です。

ごめんなさい、ずれましたね。思い込みってのは、とても禁物です。なぜなら、もしかするとEU離脱というのは、ある英国の一定層にはとても有利なことかもしれないからです。

 

さて、実際、ポンドは、離脱派優勢が報道され始めてから、それ以前の160円から、6月中旬には150円に、現時点では、昨日の国民投票の結果を受けて何と140円割れ、、、

あのね、食料など汎用品を輸入に頼っている貿易赤字の英国で、今後関税も再開される中で、通貨安って何が起こると思いますか?明らかに中間層から所得が下の層への影響の大きい、インフレが起きますよね。

これ、いいことですかね?

 

さて、次の2に関してですが、これは、金融機関にとっては、免許を再度取り直すことになるし、面倒ではなりますが、何と言ってもロンドンのシティってのは、国際金融の中心地です。情報インフラも、各種金融機関の周辺業務も、歴史的な時間の上に整備され、顧客は現段階でも世界中です。もしかすると、EU域内に残った金融機関の方が、アクセスに時間やコスト、制限かかかり、マイナスかもしれません。

それに、何と言っても、英国は「英語」です(笑)だから、ロンドンのシティの機能を、簡単にフランクフルトに移動するのは難しくて、同じ英語圏のアイルランドのダブリンとかの方が、現実的だったりします。

 

それに、EU域内に残るよりも、EUでの規制のかかる銀行グループの取り扱い(ロンドンのシティと、ドイツ銀をはじめ、欧州の銀行ってのは、ライバルで、仲が悪いんですw)を避けることもできますから、表面的にはEU離脱反対と言っていても、内面はよっしゃ!かもしれません。

これは、明らかに、ロンドンのシティの方が有利な状況にある。この点は、今後を考える上で重要なので、頭の片隅に置いておいてくださいね。

ああ、もちろんリストラもあるでしょうし、移動もありますよ。そうじゃなくて、もっと先の話です。

 

そして3って、これ実は、離脱されたEU域内の方が、問題ですよね。事実、欧州経済は、ギリシャ危機から回復してはいません。

ギリシア、スペイン、ポルトガルの財政危機というか破綻の問題は、ECBによる国債の買い支えで、小康状態を維持していますが、根本的な問題であるところの、ギリシア、スペイン、ポルトガルの経済そのものは全然回復していません。

 

それは、失業率を見れば一目瞭然です。

ギリシアは24.1%(5月)、スペインが20.1%(4月)、ポルトガルが約12.4%(第一四半期)、イタリアが11.7%(5月)、フランスが9.9%(5月)で、ユーロ圏全体での失業率は10.2%(4月)と高い状態を続けています。

まあ、ドイツでも6.1%(5月)です。

 

ちなみに日本が3.2%(4月)、米国4.7%(5月)で、どちらも自然成長率に近く、経済危機とまではいっていませんでしたよね。

実は、失業率が15%を超えている経済ってのは、恐慌に近いとされています。恐慌ですよ!欧州の各地で、若年層がデモなどの騒ぎを起こしているのは、高い失業率が背景にあります。日本の場合、実際には、人が足りませんもんね。

これ、何が言いたいかと言いますと、実は、英国のEU離脱によって、本当の意味で損害を被るのは、EU圏そのものなのです。

 

キャメロン首相の辞任によって、英国の方では誰がEU側と離脱交渉をするのかが、現時点では決まっていません。

まあ、2年という期限もあるし、不確定要素をできるだけ早く排除したいのはEU側でしょうから、交渉は始まるとは思いますが、乗り越えるべきハードルは高く、新関税をどうするかとか、もしかすると英国には、NAFTA(米国とカナダを中心としたブロック市場)への加盟とか、選択肢はいっぱいできてきますよね。

 

それに、現時点でも、英国には、約230万人のEU市民がいらっしゃいますし、EU各国にも英国市民が約150万人いる訳で、これを直ぐに移動させるなんてのは不可能な訳です。

ここから先、英国市民のEU域内への移動が制限されるということは、EU市民の英国への移動が制限されると同義語です。それは、経済のダイナミズムを台無しにしかねません。そして、英語圏が中心となる新たな枠組みが生まれるかもしれないということも、考えられる訳です。

 

今回のBrexitがなぜ、ここまで騒がれているのかというと、予想外だったからです。

冷静に考えれば、英国でEU離脱に賛成した人ほど、その悪い影響を受けやすく、全体を考えてまあ、常識で考えたらEU離脱はないと考えた人たちのポジションは、実は、選択肢も広がり、ますます格差が開いていくのでは、とすら思います。

民主主義は全員参加が原則ですが、なぜ、その導入時は普通選挙ではなく、なぜ特別選挙だったのか、なぜ直接民主主義ではなく間接民主主義だったのか。

多数決による意思判断ではなく、その際の少数意見に対して心を配ることこそ、民主主義の本質であり、結果については参加者全員が責任を取るのことも、その本質です。

 

政治家というリーダーが、絡み合った政策課題の選択を、国民投票などという根拠方のない政策をとったことこそ、最大のリスク(不確実性)であって、結果がブラックスワンとなり、予想外の出来事に市場は真っ先に混乱した、というのが現時点の現状ではないかな?って思います。

 

さて、すでに開いて、週末を迎える米国市場は、思ったよりも下落していません。金曜日の日本市場は、S&P500の下落分を、折り込んだ形で、下落したようにも見えます。

こうなってくると、FRBの利上げに対しても、ある程度のプレッシャーが掛かりますし、ファンダメンタルズから見た場合、円高となった日本市場にいる身としては、粛々と円資産を、米ドル資産に変えればいい訳ですから、僕にとっては、チャンスとすら思うんですけどね。

だって、米国市場で僕が欲しいJonson&Jonsonとか、そりゃ、ちょとは落ちたけど(たかだか△1.5%)全然フェアバリューじゃねえぐらい高いしね(笑)

 

それと、今回の一連の流れで、最も気になったのは、リーダーが、その方向性をきちんと示さないで、国民投票のようなポピュリズムに陥ると、そこでの判断ミスは思わぬブラックスワンを呼び込むんじゃないか、ってことです。

 

経営者の皆さんもリーダーですし、皆様の事業を通して、価値を創造していくれる従業員の方よりも、情報も持ってられるでしょうし、その中での方向性の判断をされるのも経営者の皆様の仕事ですよね。そうしなければ、事業の継続性なんてありえないですもんね。

だとすると、今回のようなブラックスワンの際も、作用と反作用を見極めて、一手先に、次の一手を打っていくことこそが、めっちゃ重要なんじゃないかと思うんです。

 

最後に、今回のブラックスワンは、金融システム由来の問題ではありません、政治の話です。しかも、昨年度ベースと日本と英国の貿易額に占める割合ってどれぐらいあると思いますか?

1%です。

日本の会社としては950社ほど、英国に現地法人がありますが、そんなもんです。そういえばちょっと前に、野村證券は、シティからの撤退を発表していましたね(笑)。

実際には、直接投資も少ないし、これ、影響が出るとしたら、金融商品への影響ぐらいですよね。あとは、英国の銀行がアジアに投資していますから、それがちょっと厳しくなるとは思いますが。

ね、これをみんなが「リーマンショック並みの危機だ」とか「株式取引をしている経営者はピンチだ」とかって、ちょっとアレって思いません。

 

そもそも、株式投資などというものは、現時点の必要資金でするものじゃないので、現時点での評価を気にするのは、ファンドマネージャーぐらい。それも、ちょっと前からボラティリティが高くなってたから、手元の現預金を増やしているので、チャンスと捉えている方も、多いんじゃないのかな。

 

僕も、こうやって自分の書いていることが絶対だなんって思わないけど、思考のプロセスを公開して、それでも間違っているなら、それはそれでSNSでは伝わると思うんです。SNSでは、すべてが伝わります。やっつけた投稿も、丁寧な投稿も、僕はそう思っています。

なぜって、僕がそう感じるから♪

 

それよりも、思考のプロセスを明らかにしないで、世間に迎合することを言う方が、今回の英国での政治家たち、つまりリーダーたちがとってしまった、間違った行動と同じになっちゃうんじゃないのかなって。

「株式市場においては、世間が悲観にくれている時こそ、最大のチャンス」とは、ウオーレン・バフェッとの言葉です。この僕の散文が、なんらかのヒントになれば、幸いです!

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木﨑 利長

木﨑 利長

ざっきー
1968年名古屋市生まれ。金融機関に勤務。クライアントの事業価値を向上させる事を目的とし、仕事を通して取り組んでいます。
化学メーカーの住宅部門に約9年。1999年2月生命保険会社に、ライフプランナーとして参画。
具体的には、上場企業を含む約80社の親密取引先のご縁を中心に、生命保険契約をお預かりしており、財務や資金繰りといった経営課題ついての改善や、売上を伸ばすための営業研修など、お客様の事業価値を向上させるための具体的なソリューションを提供し、経営者の弱音をも受け止められる担当者を目指し日々精進中です。
 (※このブログでの意見は全て個人の意見であり所属する団体の意見を代表するものではありません。)

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