さて、一週間前のこのニュース、
ご記憶にあるのでは?と思います。
11日の株式市場で東芝株に売りが集中し、制限値幅の下限(ストップ安水準)
にあたる403円30銭(前週末比80円安)で取引を終えた。
不適切会計問題を詳しく調べる第三者委員会の設置、2015年3月期の業績予想の
取り下げなどを8日に発表し、先行きに不安を持った投資家の売りが膨らんだ。
子会社の東芝テックなども決算発表を延期し、影響はグループに広がっている。
(引用)2015年5月11日 日本経済新聞
この「東芝不適切会計問題」は、もしかしたら、
日本の株式市場を、揺るがす大問題に、
発展するかもしれないと思い、僕なりの理解をまとめます。
工事契約に関する会計基準
様々なニューズ媒体がありますが、
いろんな記事を見ても、
「不適切な会計」とは何なのか、
具体的に書いてあるところはありません。
ほとんどが、
工事進行基準の査定が不適切、
という事ですが、
具体的にどういうことなのかによって、
問題の大小や、他への影響が予測できますので、
ちょっと、こだわってみたいと思います。
特に、製造業の経営者の方なら、簡単に理解できると思いますが、
東芝のような、重電機メーカーの場合、
イメージしやすいものとしては、発電所建設などに関わるので、
国内でも国外でも、巨額の費用を投じながら(先行投資)、
実際に、お金になるタイミングは2期も3期も先(キャッシフローと損益ギャップ)、
ということが、多々起こりえます。
ググってみましたが、発電プラントは、普通に2,000~3,000億円ほどなので、
費用と、収益のタイミングが、巨額で、長期にわたって「ずれる」と言う事が
起こりえます。
そのため、「工事進行基準」というものを設けて、
例えば、会計基準で3期に及ぶ工期があるなら、
それをそれぞれの期に均して計上しておきましょう、
という会計上の特別ルールを利用することになります。
工事契約に関する会計基準
そもそも、工事進行基準については、
2009年3月以前は、例外処理として認められていた会計処理であり、
恣意的に、費用・収益が計上されてはまずいので、
ルールが決められている訳です。
制度の概要としては、
工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が
認められる場合には工事進行基準を適用する。
工事進行基準とは、工事全体の完成及び発注者からの請求前にかかわらず、
工事の進捗度に対応する部分について収益計上を行う会計処理である。(引用:Wikipedia)
とあります。
また、「成果の確実性」を担保するものとして、
工事進行基準の適用要件である成果の確実性とは、当該工事契約に関する
①工事収益総額
②工事原価総額及び
③工事進捗度
の3点について、信頼性をもって見積もることができる状況をさす。
なお、信頼性をもって見積りできない工事契約については、従来の工事完成基準を
適用できるが、監査上の見地から、成果の確実性をもって管理できない場合、
当該施工者の工事管理方法に何らかの問題があるのではないか、
との疑念を持たれかねず、ひいては監査証明や顧客の信用
(例えば、工事管理能力のなさから工事遂行能力への信用が失われる等)
及び業績等への影響も及ぼしかねない点に留意する必要がある。(引用:Wikipedia)
とあります。
つまり、
当初から、厳密にルールを決めて、それ則って、均す、
という作業が行われ、かつ、監査法人のチェックもあるよ!
という事が、前提というか、建前になっている訳です。
では、なぜ、不適切な会計処理がなされたのか?
でもね、、、
監査法人って、誰から監査報酬を得るのかというと、
当該企業の訳ですよね。
で、あれば、
企業の方が、圧倒的に立場が強く、
かなり微妙な駆け引きの産物となる事が多いものも、
事実ですよね。
しかも、上場企業、というのは、
市場に対して、情報開示の公平性と、透明性が求められる訳です。
その大前提が、ルールに則った、正しい情報であること!が
めっちゃ大事な訳です。
でも、それを担保するのは、関わる一人一人の倫理観と、
コンプライアンスに依存する訳で、
東芝のような、規模も、社歴も、ある企業の複数の部門で起きたことに、
衝撃を受けている訳です。
ルールを破ったから、ごめんなさい。で済まないのが「市場」
この、工事進行基準の問題、
そもそも、市場は、以前から警戒はしていました。
だって、もし、
恣意的にこのルールを運用したら、
利益の先延ばしや、
逆に利益の前倒しによる、
企業決算のかさ上げに、
使われてしまうのではないか、
という疑念があったからです。
そして、
今回、東芝という大企業で、
それに対する疑義が表面化した訳です。
これは、東芝で問題になっている、
500億円という金額が、
それだけで済むと言う保証はない、
もっとあるのではないかという疑念と、
(だからストップ安になった訳です。底が知れないからです、、、)
それだけではなく、
他の重電メーカーさん(三菱重工、日立など)も、
もしかしたら、同じことをやっているのではないか?
という、疑惑を生むには十分すぎる材料であるからです。
(これ、本当にやばいですって、、、)
また、同じような事情は、
工事が長期にわたるプラントメーカーや、ゼネコンは元より、
投資期間が比較的長期になる、放送関係、通信関係、更には商社など、、、
日本の主要大企業の、かなりの部分が、
この疑惑にさらされる恐れがある、
という事が、
問題なのです!
そもそも、
外国人の売買によって、支えられている、
東証という一日の取引高が、今や2兆円ちょっと、
という、
流動性の少ない市場で起きていることなのです。
会計が信用できないと、何がおこるのか?
よく、市場関係者といいますが、
様々なそれぞれのポジションで、
商売をすることにより、
需要と供給から、
「流動性」を提供しているのが、市場です。
でも、
どんな、アナリストなど、分析をする人たちでも、
そもそも、企業の発表する会計情報を、
100%正しい!
という前提に立って分析しているに過ぎません。
当たり前ですが、その決算内容が正しいのかどうか、
などという疑念を持ちながら、分析している訳ではないのです。
当たり前ですよね!
でもね、
もし、それを参考にして、株式を買っているのだとすると、
本当はその株価の価値がなかったかもしれない、
という「危険な投資」を行っていることになりませんか。
会計は正しい、という前提が狂ってしまうと、
どんなファンドマネージャーでも、機関投資家含め、プロの投資家でも、
手も足も出ないことが、お分かりいただけますでしょうか、、、
これやられたら、無理です、絶対に。
つまり、今回の問題の本質は、
- 株価そのものに対する疑惑
- そこから派生する、お金を預けているプロの投資家に対する信任の疑念
という、株式市場の根底を揺るがす、
問題になりかねないかも、というのが、
僕の個人的な見解です。
日本の市場では、粉飾しても懲役にならないケースも多く、
そもそも世界的に見て、ルールが不明確で、
不正を行った場合の罰則も、軽いのが事実です。
ライブドア事件で、堀江さんは懲役をうけましたが、
その数十倍規模の粉飾をしたカネボウも、日興コーディアルも、
懲役刑にはなっていませんし、上場廃止もしなかったですよね。
また、それを、監査する方も、エンロン事件などで、
関与したCPAは、懲役(100年とかっすよ!)や罰金なので、
相当に、双方の緊張感も保たれ、
結果、株価が適正に決定されています。
つまり、そのプロセスの透明性と、公平性の確率が高いことが、
世界からマネーを集められる源泉なのかもしれません。
会計とは、その企業の「経営者の成績表」です。
だからこそ、理解し、表現することが、
とても大事で、企業規模の差はあれ、
信用というものに直結している、大切な要素ではないでしょうか。
「信用は一夜にして作られないが、壊すのは一瞬」
肝に、銘じたいところです。
木﨑 利長
化学メーカーの住宅部門に約9年。1999年2月生命保険会社に、ライフプランナーとして参画。
具体的には、上場企業を含む約80社の親密取引先のご縁を中心に、生命保険契約をお預かりしており、財務や資金繰りといった経営課題ついての改善や、売上を伸ばすための営業研修など、お客様の事業価値を向上させるための具体的なソリューションを提供し、経営者の弱音をも受け止められる担当者を目指し日々精進中です。
(※このブログでの意見は全て個人の意見であり所属する団体の意見を代表するものではありません。)
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